3DR Solo: 「サイバー・テロ 日米 VS. 中国」とドローン対策
昨日の記事「Solo Link は脆弱か?」に関連して、米国の UAV(無人機)がハックされた事例を思い出しました。
「サイバー・テロ 日米vs.中国 (文春新書)」という新書本に書かれていますので、その本の 45~46ページから一部を引用します。
----- 引用開始 ------
ステルス無人機「撃墜」
2011年12月、核問題をめぐって対立を深めるイランが、米国の最新鋭ステルス無人偵察機(UAV)RQ-170を撃墜したと発表したのだ。
このRQ-170は、CIAが国防総省から惜りたもので、アフガニスタンにあったものをイランに対する秘密作戦に使っていた。CIAは、イランの国中で結びあわされている地下トンネルを調査する三年越しのプログラムを実施していた。そうしたトンネルにはイランの核プログラムが隠されていると考えられていた。イランは地下に施設を埋めてしまうことで、空爆の危険を回避しようとしていた。CIAはUAVを飛ばすことで、ターゲットを探していたのだ。
慌てたアメリカ政府が、撃墜したならば残骸の画像なり映像を公開せよと迫ると、イランはほぼ無傷のRQ-170の映像を公開した。実はイランはミサイル等で撃墜したのではなく、RQ-170の通信をハイジャックし、意図的にイラン領内に不時着させたといわれている。
前出のニューヨークータイムズ紙のデビッド・E・サンガー記者によれば、イラン上空を飛んでいたRQ-170のスピードが急速に落ち、自動システムが作動し、リモートコントロールしていた操縦士の指令を受け付けなくなったという。そして、イランの牧草地に不時着した。操縦士たちは、なすすべもなく顔を見合わせるしかなかった。
本当にイランが無線通信を使ってRQ-170のシステムを乗っ取ることができたのかははっきりしない。しかし、この問題は、最新鋭のステルス技術を持った機体がほぼ無傷で敵対する国に渡ったという点でまず衝撃的だった。そのステルス技術が解析され、イランだけでなく、中国やロシアといった国にも拡散してしまうかもしれない。
そしてもう一つ、無人機という特別なネットワークー・コンピュータがサイバー攻撃を受けたという点も衝撃的である。無人機はその性格上、通信なしでは成り立たない。パイロットは安全な基地の中から各種のモニターとセンサーを使って操縦する。人命の損失を無くすことができるという点で画期的である。米軍は無人機を大量に発注し、実戦に投入している。それが役立たずになるとしたら、戦略と戦術の変更を迫られることになる。
オバマ政権は、RQ-170に向けて爆弾を落として破壊することも考えたが、イランによって不時着させられたとは当初考えなかったため、結局は何もしないことにした。誰もRQ-170に気づかなかったり、重要だと認識しないことを期待したのだ。しかし、イラン政府はそれをテヘランに持ち帰り、そのレプリカを見世物にした。
イランは、2010年のスタックスネットでサイバー攻撃を受けた側だった。それがイランを目覚めさせた。イラン政府は、核技術の開発を進めるとともに、10億ドルをサイバー戦能力の開発に投資したという。いまだイランのレベルは、中国やロシアには届いていないという声もあるが、アメリカとの対立という構図の中では、サイバー戦能力は必要不可欠と考えていてもおかしくない。
こうした国々にとっては、自国民の能力を上げることだけが選択肢ではない。第五章で見るように、サイバー攻撃の請負業は確実に広がっており、民兵と傭兵が増えてきている。そうしたサイバー戦士たちを動員できれば、自分の手を直接汚さなくてもサイバー攻撃を加えることができるようになる。
----- 引用終了 ------
政府のドローン対策でも、正体不明のドローンが重要施設に侵入してきた時に、そのコントロールをハックすることにより、施設を積極的に防御することも検討する必要があるでしょう。日本政府のサイバーセキュリティ対策は、上記の本によると、「内閣官房情報セキュリティセンター(NISC)」が中心になって行っているとのことです。
私としては、イランにできたことが NISC にできないわけはないと信じたいです。しかし、NISC の所在地が、なんと、例のドローンが不時着した首相官邸のすぐ隣だったということには驚きました。
つまり、少なくとも官邸ドローン事件までは、NISC は何の対策もしていなかったことになります。(^^ゞ
とにかく、この本はとても面白いです。
ご一読をお勧めいたします。
「サイバー・テロ 日米vs.中国 (文春新書)」という新書本に書かれていますので、その本の 45~46ページから一部を引用します。
----- 引用開始 ------
ステルス無人機「撃墜」
2011年12月、核問題をめぐって対立を深めるイランが、米国の最新鋭ステルス無人偵察機(UAV)RQ-170を撃墜したと発表したのだ。
このRQ-170は、CIAが国防総省から惜りたもので、アフガニスタンにあったものをイランに対する秘密作戦に使っていた。CIAは、イランの国中で結びあわされている地下トンネルを調査する三年越しのプログラムを実施していた。そうしたトンネルにはイランの核プログラムが隠されていると考えられていた。イランは地下に施設を埋めてしまうことで、空爆の危険を回避しようとしていた。CIAはUAVを飛ばすことで、ターゲットを探していたのだ。
慌てたアメリカ政府が、撃墜したならば残骸の画像なり映像を公開せよと迫ると、イランはほぼ無傷のRQ-170の映像を公開した。実はイランはミサイル等で撃墜したのではなく、RQ-170の通信をハイジャックし、意図的にイラン領内に不時着させたといわれている。
前出のニューヨークータイムズ紙のデビッド・E・サンガー記者によれば、イラン上空を飛んでいたRQ-170のスピードが急速に落ち、自動システムが作動し、リモートコントロールしていた操縦士の指令を受け付けなくなったという。そして、イランの牧草地に不時着した。操縦士たちは、なすすべもなく顔を見合わせるしかなかった。
本当にイランが無線通信を使ってRQ-170のシステムを乗っ取ることができたのかははっきりしない。しかし、この問題は、最新鋭のステルス技術を持った機体がほぼ無傷で敵対する国に渡ったという点でまず衝撃的だった。そのステルス技術が解析され、イランだけでなく、中国やロシアといった国にも拡散してしまうかもしれない。
そしてもう一つ、無人機という特別なネットワークー・コンピュータがサイバー攻撃を受けたという点も衝撃的である。無人機はその性格上、通信なしでは成り立たない。パイロットは安全な基地の中から各種のモニターとセンサーを使って操縦する。人命の損失を無くすことができるという点で画期的である。米軍は無人機を大量に発注し、実戦に投入している。それが役立たずになるとしたら、戦略と戦術の変更を迫られることになる。
オバマ政権は、RQ-170に向けて爆弾を落として破壊することも考えたが、イランによって不時着させられたとは当初考えなかったため、結局は何もしないことにした。誰もRQ-170に気づかなかったり、重要だと認識しないことを期待したのだ。しかし、イラン政府はそれをテヘランに持ち帰り、そのレプリカを見世物にした。
イランは、2010年のスタックスネットでサイバー攻撃を受けた側だった。それがイランを目覚めさせた。イラン政府は、核技術の開発を進めるとともに、10億ドルをサイバー戦能力の開発に投資したという。いまだイランのレベルは、中国やロシアには届いていないという声もあるが、アメリカとの対立という構図の中では、サイバー戦能力は必要不可欠と考えていてもおかしくない。
こうした国々にとっては、自国民の能力を上げることだけが選択肢ではない。第五章で見るように、サイバー攻撃の請負業は確実に広がっており、民兵と傭兵が増えてきている。そうしたサイバー戦士たちを動員できれば、自分の手を直接汚さなくてもサイバー攻撃を加えることができるようになる。
----- 引用終了 ------
政府のドローン対策でも、正体不明のドローンが重要施設に侵入してきた時に、そのコントロールをハックすることにより、施設を積極的に防御することも検討する必要があるでしょう。日本政府のサイバーセキュリティ対策は、上記の本によると、「内閣官房情報セキュリティセンター(NISC)」が中心になって行っているとのことです。
私としては、イランにできたことが NISC にできないわけはないと信じたいです。しかし、NISC の所在地が、なんと、例のドローンが不時着した首相官邸のすぐ隣だったということには驚きました。
つまり、少なくとも官邸ドローン事件までは、NISC は何の対策もしていなかったことになります。(^^ゞ
とにかく、この本はとても面白いです。
ご一読をお勧めいたします。